飲食店の「個人衛生」

 前回は”一般的な衛生管理”の中でも、もっとも基本的な「手洗い」について解説をしました。食品衛生において「個人衛生」はもっとも基本的なことですが、その中でも「手洗い」は基本中の基本です。では「手洗い」の他に「個人衛生」にはどのようなことがありますか? 健康管理、マスクの着用など・・・そう聞かれると、大切なことだとは分かっているものの、なかなか思い浮かばないのではないでしょうか。
 今回は「個人衛生」について解説していきたいと思います。

目次

「個人衛生」について

■「個人衛生」って何?

 「個人衛生」は文字通り、食品を取り扱う人の衛生管理のことです。つまり人を介して食品を汚染させないようにする行為のことです。
 例えば、手洗いは手に付着しているかもしれない病原性微生物を洗い落とし、清浄化をするための行為です。手洗い後はさらにアルコールなどで殺菌し、調理時には手袋を着用することも食品を汚染させないための行為です。マスクは鼻腔内からの飛沫(黄色ブドウ球菌)が飛散しないよう覆うための行為です。また日々の健康状態(下痢や嘔吐、手指のケガなど)の把握は、健康状態を確認して食品への汚染が起きないようにするための行為です。
 「なんだ、いつもしていることじゃないか」と思われたのではないでしょうか。では、これらの行為を調理従事者の方が自覚して、日々の作業で実施することができているでしょうか。

■「個人衛生」ってどこで、何が定められているの?

 原材料の受入確認、冷蔵庫の温度管理、手洗いなど衛生管理の基本となることを“一般的な衛生管理”といい、HACCPの計画書を検討・作成するための、前提条件となるものです。そのため、一般的な衛生管理は「前提条件プログラム(PRPまたはPP、Prerequisite Programsの略)」とも言います。
 “一般的な衛生管理“については、厚生労働省令の「別表17 一般的な衛生管理に関する基準」で以下の14項目が定められています。これらは国際標準のHACCP規格が掲載されているCODEX(コーデックス)規格の「食品衛生の一般原則」がベースとなっています。
 厚生労働省令では「7 食品又は添加物を取り扱う者の衛生管理」で個人衛生について何をしなければならないのかが規定されています。またCODEX規格では、「セクション6 個人衛生」として、個人の清潔さが維持できていない人、何らかの疾病を有している人、適切でない行動をする人は食品を汚染する可能性があるとして、健康状態、疾病及び傷害、個人の清潔さ、個人の行為、外来者について何をすべきなのかが示されています。

(参考)
厚生労働省令 衛生管理基準の解説 「別表17 一般的な衛生管理に関する基準」
スライド 1 (mhlw.go.jp)

■「個人衛生」ですることは?

 個人衛生で対応することは、以下のようなことが求められています。いずれも人に起因して食中毒の原因となる病原微生物の汚染、またケガにつながる硬質異物の混入などの危害要因(ハザード)から、食品を汚染させないようにするためにとても大切なことです。

  • 健康状態の把握(健康診断、検便)
  • 皮膚の外傷の把握と対応
  • 作業着やマスクの着用などの身だしなみ管理(装飾品、その他不要品持ち込み禁止)
  • 爪の管理や適切なタイミングで手洗い(手袋の適切な使用や交換)の実施
  • 衛生慣行(痰、唾を吐くことの禁止、くしゃみなどの飛沫への注意)
  • 外来者が調理場へ入場する場合も上記に従わせる

 特に健康管理はとても重要です。毎日、健康状態をチェックして記録に残しましょう。健康管理で確認する症状は以下です。

(厚生労働省令 「別表17 一般的な衛生管理に関する基準」から)

ハザードへの対応

■健康管理、手洗いなどは主に生物的(病原微生物)なハザードへの対応

 黄疸はウィルス性肝炎、下痢・腹痛・嘔吐・発熱は病原性大腸菌、ノロウィルスなどのいわゆる食中毒の症状、皮膚の化膿性疾患や耳、目又は鼻からの分泌物は黄色ブドウ球菌など健康状態に問題があり、必要な場合は医師の診察、また調理作業の中止などの判断が求められています。
 健康状態は、年1回検便で確認しているから大丈夫と思わないでください。検便はあくまでも検査した時点での健康状態(感染可能性、保菌状態)しか分かりません。毎日の健康状態をチェックし、検便は検査による検証と捉えて、補完するものと考えましょう。
 手指に傷がある場合、傷を耐水性の絆創膏などで覆い、食品を汚染させないようにしましょう。さらに手袋をすると効果的です。特に化膿している場合は黄色ブドウ球菌が増殖している可能性が考えられますので注意が必要です。
 調理する際の服装も大事です。調理中に自身が汚れないようにするためのものではなく、食品を汚染させないようにするためのものとして衛生的な作業着、必要に応じてヘアキャップや帽子などの着用をしましょう。作業の内容によっては、手袋の着用、マスクをすることも必要です。
 手洗いも大事です。手洗いしやすいように爪を短く整え、適切なタイミング、方法で実施することで、食品への汚染を防止することができます。
 これらは調理従事者だけではなく、調理場に立ち入る外来者(機器の保守点検作業者、防虫業者など)にも従っていただきましょう。

(参考)食中毒の発生原因と手洗い – ハサエちゃんBLOG (hasaechan.com)

■装飾品、不要物の持ち込み管理は主に物理的(硬質異物)ハザードへの対応

 硬質異物(プラスチック片、金属片など)などの食品への混入はケガの原因になります。これらの多くは、調理従事者が持ち込むものに起因します。装飾品の指輪、ネックレス、ピアス、髪留めピンなど、また調理作業には不要なたばこ、ライター、化粧品などは持ち込みを禁止し混入の可能性をできるだけ排除することが必要です。
 その他、ホチキス、クリップなど数量管理が難しく、無くなっても気が付かないようなものはできるだけ調理場で使わないようにしましょう。

■まとめ

 今回は個人衛生について解説してきました。個人衛生は文字通り人がすることですので、なぜそうしなければならないのかを認識し理解して運用することが大事です。
 厚生労働省令別表17の「13 教育訓練」では、食品取扱者に対する衛生管理の教育の実施、教育訓練の効果を定期的に検証、必要に応じて見直しをすることが求められています。教育やトレーニングを実施した場合は、実施日、対象者、内容など、必ず記録を残し、その効果を検証していくようにしましょう。
 「個人衛生」に限らず、ルールを決め、それを守らせるということはとても大事なことです。“何のため“にそのルールがあって、”なぜ“そうしなければならないのか、その目的や意味を説いて説明し、調理従事者が認識し理解して現場で実践、運用できるようにしていきましょう。

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Matsuo consulting office 代表                                                            小売業に在職中の30年間、現場改善、品質保証・品質管理、HACCP、ISO9001などの専門業務を担当するとともに、ゼネラリストとして様々な業務を経験し、2021年5月食品衛生、品質管理のコンサルタントとして独立。飲食店や食品製造工場への支援、食品工場建設に関するアドバイス、また食品の物流施設や輸送・配送管理等、幅広く支援。                                                                      島根県衛生管理アドバイザー、HACCPリードインストラクター、HACCP上級コーディネーター(JHTC認定)、ISO22000審査員補